入学式と卒業式についての回想

Last Updated on 2025年3月19日 by 成田滋

日本とアメリカの大学の大きな違いの一つが、グローバル化の時代における国際的な交流や流動性の促進ということです。大学や学生が海外において多様性と出会う経験をすることの意義を強く意識しているか否かの違いです。アメリカの大学ほど多くの留学生が学ぶところはありません。つまり大学内において国際的な交流ができる環境にあるのです。それにも関わらず大学生を海外に送り出すのは、多様性に満ちた世界でなんらかの経験をさせることが大事だと認識しているからだろうと思います。

 私の4人の孫のうち3人は大学生、もう一人は大学を卒業しました。この3人とも在学中に外国へ行って勉学をする機会を持っています。一人はボストン市内の会社でインターンを経験しました。その経験によって、モンタナ州のボーズマンという街で就職先を見付けました。ボストンという大都会での就職をなぜ避けたのは私も知りたいところです。二人目はアフリカのナミビアで調査旅行をし貧富の激しい社会を調べたようです。三人目の孫はコンピュータサイエンスを専攻し、台湾と韓国の大学で短期留学をしています。四人目は現在ミネソタ大学で環境科学の勉強中です。このようにアメリカの大学の多くは、インターンシップや短期の留学、そしてボランティアの機会を持つことを奨励しています。

UW Madison Commencment

 感受性が豊かで柔軟性があり失敗も許容される若いうちに、世界の持っている多様性と出会う経験をしておくことは貴重です。世界の国々や人々の知恵に触れることは、やがてグローバル化の時代に大きな力となるはずです。日本の大学生の留学志向が下がってるといわれます。インターネット上で世界中のことが分かるとか、大学内に外国からの教授らがいるので、外国と同じような経験をできる、というように思いがちです。

 しかし、学問の世界では、外国での実体験によって自分の相対的な知識や学問のレベルが分かるのです。上には上があることを知るのが留学なのです。私も長男も同じような実感をしたものです。実に優秀な学生がいるのです。大学はもっと、日本の学生に対して多様性と出会う経験をすることの意義を教えなければなりません。それをしていないのが日本の大学の弱さであり後進性です。

 このところ幼稚園から大学まで入学式が続いています。子どもも大人も晴れ着を着て式に出席します。この光景をみていると日本人というのは入学式とか入社式、出発式とかの行事が好きな民族のようです。「はじめよければ終わりよし」(A good beginning makes a good ending. )という諺を体現しているようです。諺は人類の英知のはずです。真逆の教訓を垂れる諺も含蓄があるようです。「A good ending makes all good.」といえないでしょうか。入学式を大切する文化が悪いということではありません。卒業式の意義をもっと考えてもよいのではないかと言いたいのです。

 大学の入学式が厳粛なのは、受験戦争を勝ち抜いた者を讃えるからかもしれません。学長や総長が、「諸君の前には輝かしい未来が待っている」「さまざまな学びや課外活動を含めて、幅広い分野に興味を広げるように」などというご宣託を告げがちです。それはそれでよいのですが、問題は4年間の学業の質が卒業に結びつくか、ということです。英米の大学には入学式はありません。実は入学より卒業のほうが難しいのです。そう考えれば卒業とは、「All is well that ends well. 」という諺に示されるように、「卒業とは努力のご褒美」なのです。4年間、あるいは6年間の厳しい学業を経たものを皆で盛大に祝いたくなるのが卒業式です。

J.J. Watt

 「始めが大事」と言って覚悟を新たにしなければなりませんが,卒業によって「終わりが大事」といって気持ちを引き締め社会に出て行くのです。ですから卒業式は「始まり」とか「開始」を意味する「commencement」を使うのです。卒業式には大学の同窓生からの祝辞が贈られます。例えば、私が学位を貰ったウィスコンシン大学の卒業式で、大学やプロフットボールで大活躍したジェイ・ジェイ・ワッツ(J.J. Watt)が招かれて卒業生を激励しました。

 スタンフォード大学ではアップルの創業者、スティーブ・ジョブ(Steve Jobb)が招かれ有名な言葉を贈りました。彼は、「ハングリーであれ。愚か者であれ(Stay Hungry. Stay Foolish.)」自らの生い立ちや苦悩した製品開発、解雇と復帰、闘病生活を織り交ぜながら人生観を語るのです。学長や総長ではできない式辞といえましょう。このように卒業式とは、社会に育っていく者に勇気を与える大事な機会となるのです。入学式ではできない瞬間といえましょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA